2026年06月25日
街の記憶を紡ぎ、地域とともに息づくホテルを。
スターツが描く「おもてなしの空間」づくり
※トップ画像:ホテル エミオン 東京ベイのエミオンタワー
宿泊施設としての役割を超え、街の賑わいを生み出す拠点へ。スターツのホテル開発の根底には、常に「人」を中心に据えた理念があります。スターツグループで総合企画を担う株式会社スターツ総合研究所で理事を務める浅野一行は、グループのホテル設計を牽引してきました。今回は東京ディズニーリゾート(R)のパートナーホテルである「ホテル エミオン 東京ベイ」の開発時のエピソードを通じて、スターツグループの「快適な空間づくり」と「地域社会への貢献」への情熱に迫ります。
目次
実績よりも「ゼロからの共創」を。理念に共鳴した出会い
「ホテル エミオン 東京ベイ」の客室の一例(和洋室タイプ)
浅野とスターツとの出会いは前職の設計事務所時代、1999年頃にさかのぼります。外部の設計事務所の人間としてスターツ初となるリゾートホテル「ホテル エミオン 東京ベイ」の設計プロポーザルに参加した際、それまで手掛けた豊富な実績をアピールした浅野のチームは、思いがけない言葉をかけられたといいます。
浅野―――「村石会長(スターツコーポレーション株式会社取締役会長)から、『豊富な実績があるからこそ、逆に怖い。我々はゼロから一緒にホテルを創っていくパートナーを探しているんだよ』と、言われたのです。それまでの仕事では実績が評価されることに慣れていた私にとって、ハッとさせられる出来事でした。この人と一緒に仕事すると面白そうだ、そう強く心を掴まれたことを覚えています」
いざ「ホテル エミオン 東京ベイ」の設計が始まると、施主であるスターツからは、“住居並みの居住性能を兼ね備えたホテル”という高いレベルの要求が求められました。
浅野―――「通常、ホテルは数日間の滞在なので、そこまでの居住性は求められません。しかし、スターツからは高い安全性と遮音性が求められました。そこで、高層ビルに一般的な鉄骨造ではなく、揺れに強い鉄筋コンクリート造(高層RC造)を採用し、客室間の壁をコンクリート耐震壁(地震や風の揺れに強い構造壁)にすることで遮音性能も確保しました。さらに、万が一の地震の際にも揺れを大幅に軽減する免震構造を導入し、安全性と快適性を実現しています」
「ホテル エミオン 東京ベイ」の開放的なロビー
設計期間は、周辺の埋め立て計画中止の影響もあり、2年半に及びました。その間、村石と膝を突き合わせて設計を練り直す中で、浅野はスターツの企業風土に強く惹かれていきます。
浅野―――「特に印象的だったのは、お客様が過ごされるフロント側とスタッフが作業で行き来するバックヤードの境界をなくすという発想です。『従業員がお客様の前を出歩いて、気軽に挨拶できる方がいい』との考えをいただき、裏方用のサービスエレベーターを修学旅行生などの団体客も使えるように変更し、内装も来客仕様にしました。常識にとらわれない発想とスターツグループの『人が、心が、すべて。』という理念の一端に直に触れる機会となり、スターツに惹きつけられるきっかけとなりました」
地味な積み重ねと「地域性」の探求が、唯一無二の快適さを生む
2020年7月23日に開業した 「ホテル エミオン 京都」
ホテル エミオン 東京ベイに限らず、スターツが手がけるホテルに共通しているのは、徹底した「利用者目線の快適さ」です。浅野はそのこだわりを空間のどういった部分に表現しているのでしょうか。
浅野―――「快適さの本質は、広さと使い勝手の良さを含む総合的なバランスにあります。例えば、客室の中で一番長く過ごすパーラー空間(リビングスペース)は限られた広さの中で、動作空間や使い勝手への配慮や工夫があるか。こうした機能性への計画精度が、完成後のホテルの快適性に大きく影響するのです。コストを抑えた3点ユニットバスにするか、効率的なシャワーブースのみとするか、快適さを優先したセパレートタイプのバスルームにするかも、お客様に提供したい体験価値とのバランスを見極めながら一つひとつ丁寧に選択しています」
そして、スターツがホテルづくりにおいて重要視しているのが「地域性」の取り込みです。旅の目的が多様化する中、ゲストはその土地の歴史や風土に根ざしたリアルな体験を強く求めているのではと浅野は語ります。
「ホテル エミオン 京都」のロビー
浅野―――「『ホテル エミオン 京都』を設計した際は、計画地に平安時代の外交施設である『鴻臚館(こうろかん)』があった歴史から着想を得て、ロビーに当時の建築様式である神殿造りを思わせる空間構成やデザインを取り入れました。同時にゲストの目に触れる場所には京都の地場木材を使用しています。
また、札幌の再開発エリアに計画した『ホテル エミオン 札幌』では、計画地に建つ石蔵に使われていた『札幌軟石』を内装に再利用し、札幌開拓を支えた『創成川』をデザインモチーフに取り込むなど、その土地のコンテクスト(文脈)を紐解き、計画に反映しています」
「ホテル エミオン 札幌」2Fにある“オトナの隠れ家”のようなバー「奏星」
近年ではインバウンド需要の増加もあり、多様化するニーズに応える質の高さが求められるようになってきています。旅行客に快適さを提供することはもちろん、その土地ならではの歴史や文化を宿泊体験の中に取り入れていることが、スターツらしいホテルの魅力となっています。
街に賑わいを表出させる、ホテルを起点とした「地域社会への貢献」
ホテルを宿泊施設という「点」としてではなく、周辺地域を含めた「面」として捉え、街全体との関わりを重視するのもスターツのホテルの大きな特徴です。数々のプロジェクトを手がけてきた浅野は、ホテルが持つ街との相互作用について次のように語ります。
浅野―――「ホテルは、人が集まり、交流が生まれる地域の“コミュニケーションのハブ”になり得ます。『ホテル エミオン 京都』では、通常なら室外機などの設備が置かれる屋上スペースを工夫し、広大な屋上空間を確保しました。そこからは京都名物の『五山送り火』を一望でき、宿泊客が客室外でも特別な時間を過ごせる場になっています」
「ホテル エミオン 京都」の展望デッキ「スカイテラス」
こうした「街に開かれた空間づくり」の思想は、建物の外観にも色濃く反映されています。同ホテルの建設では、周辺環境の活性化を意識して次のような設計が行われました。
浅野―――「京都の計画地は、元中央市場の一角で、朝は賑わいますが、それを過ぎると閑散としてしまう場所でした。そこで、横に長いホテルのファサード(正面外観デザイン)の低層部を大きなガラス面とし、ホテル内の賑わいが通り側に透けて見えるような造りにしました。私たちはこれを『賑わいの表出』と呼んでいます」
ホテルが開かれた空間になることで街が活気づき、街が魅力的になることでホテルの価値も高まっていく。この好循環が地域社会への貢献につながると浅野は語ります。
浅野―――「ホテルと街は、お互いに刺激し合う関係でなければいけません。実際に『ホテル エミオン 京都』のケースでも、ホテルが賑わいを生み出す起爆剤となり、周辺に第2、第3の新しい施設や人の流れが生まれています。そうやって街全体が活性化していくことこそが、私たちがめざす理想の街づくりなのです」
多様化する旅のニーズに応え、コアなターゲットを魅了する未来へ
ライフスタイルが変化し、人々の旅の目的も多種多様になっています。そうした時代の中で、これから求められる「理想のホテル像」を、浅野はこう語ります。
浅野―――「よく『理想のホテルとはどんなホテルですか?』と聞かれるのですが、一言で答えるのは非常に難しいです。立地が違えば求められるものも異なりますし、シティホテルなのかリゾートホテルなのか、ゲストがどのような体験を求めて宿泊するのかによって、我々設計者が導き出す回答は全く変わってきます。ただひとつ言えるのは、『その土地の魅力や地域性』をうまく取り込めているホテルは、ゲストに『もう一度ここに泊まりたい』と思っていただける強い力を持っているということです」
最後に、浅野が今後新たに挑戦していきたいことについて伺いました。
浅野―――「これまでスターツでは、幅広い層に喜ばれるホテルを中心に開発してきました。しかし世の中には、非常に限定された層だけをターゲットにした“尖ったホテル”も存在します。例えば、特定のスタイルや立地を深く愛する人に向けた小規模の高級ホテル『スモールラグジュアリーホテル』などです」
スターツが社会に提供できる価値の幅をさらに広げるために、特定の価値観を共有する人々に深く刺さる体験を提供したい。浅野はそんな新たなアプローチへの意欲を見せます。
浅野―――「これまでのスターツのノウハウを活かしながら、ニッチでコアなターゲットにそこでしか味わえない特別な体験価値を提供できるようなホテル開発にも、今後はぜひ挑戦してみたいですね。時代が求める多様なニーズに対して、スターツならではの柔軟な発想とグループの総合力で応えていきたいと考えています」
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