2026年07月27日
若者の本離れは本当?
『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』と書店の新しい関係
SNSを中心に話題を広げ、中高生から多くの支持を集めてきた青春小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』と、その続編『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』。映画化をきっかけに作品への注目がさらに高まることで、書店にも若い読者が足を運び、本を手に取ってくれる機会になっています。世間では「若者の本離れ」が語られることもありますが、実際の売り場ではどのような変化が起きているのでしょうか。書籍、文具、音楽&映像、そしてカフェが一つになった大型複合書店であり、幅広い品揃えに定評があるコーチャンフォー若葉台店 執行役員 千葉國政さん、児童書を担当する森田彩子さん、スターツ出版株式会社 出版マーケティンググループ・上條里紗に、若者と本屋の関係、そして読者を惹きつける仕掛けについて聞きました。
目次
「若者の本離れ」は本当? 売り場で起きている読書の変化
出版不況や書店の減少が語られる際、その要因として「若者の本離れ」が挙げられることは少なくありません。「今の若者はスマホばかりで活字を読まない」——そんな世間のイメージに対して、コーチャンフォー若葉台店の千葉さんは、書店の現場から明るい見方を提示してくれました。
コーチャンフォー若葉台店 執行役員 千葉さん
千葉さん──「売り場を見ていると、実態は真逆に感じます。活字離れどころか、若い世代の読書文化はむしろ育ち続けていると感じています。たとえば、ある文庫企画を大きく展開した売り場をSNSで投稿したら一気に注目を集め、翌日からその棚を一目見ようと多くのお客様が来店し、棚の前に長い行列ができたこともありました。並んでいたお客様の多くが、20代を中心とした若い世代だったのも印象的でした」
本離れと言われる昨今、若者が書店に行列を作っているという事実に驚く人も多いのではないでしょうか。こうした現象の背景にあるのがSNSの存在だと千葉さんは話します。
千葉さん──「以前はテレビなどのマスメディアがトレンドを作っていましたが、今はSNSのアルゴリズムを通じて、個人の発信が広がっていく時代です。SNSで本好きの個人が感想やおすすめを発信し、それを見た人が本を買い、読んでまた感想を発信する。そうした流れが読書好き同士のつながりを生み、読書文化の裾野を広げているのだと考えています」
スターツ出版でマーケティングを担当する上條も、フォロワー数の多さだけでは見えない、SNSの影響力を実感しています。
スターツ出版株式会社 出版マーケティンググループ 上條
上條──「本当にSNSの力とその変化を実感しています。数年前までは、数十万人のフォロワーを抱える大きなアカウントが持つ影響力が目立っていましたが、今はフォロワーの数を問わず、熱量のある感想が誰かの心に届き、本を知るきっかけを生み出しています。こういった全国の読者の一つひとつの『生きた感想』がSNS上で多くの人の目に触れ、そこから作品への関心が広がっていく。読者の感想が、次の読者との出会いを生み出す時代になっていると感じます。」
コーチャンフォー若葉台店の森田さんも、売り場で読者の行動の変化を感じているそうです。
コーチャンフォー若葉台店の森田さん
森田さん──「私の担当する児童書の売り場でも、小学校高学年のお子さんや中高生が一人でふらっと入ってきて、自分の好きな本をじっくり読んでいる姿を見かけます。SNSをきっかけに、今まで本を読んでこなかった層にも『読書って楽しいんだ』という気付きが広がり、それが来店動機につながっているのかもしれませんね」
世間の「本離れ」というイメージとは裏腹に、SNSを起点とした新しい読書の波は、少しずつ若者たちを書店へと向かわせています。
若者にとって本屋は「コミュニケーションの場」。偶然の出会いを生む売り場作り
今の時代、目的の本を読むだけなら電子書籍で、買うだけならネット通販で事足ります。それでも、わざわざリアルな書店に足を運ぶ理由は何なのでしょうか。千葉さんは、書店という空間そのものが持つ「ワクワク感」が鍵となっているとみています。
千葉さん──「一言で言うと、書店に足を運んだときに『次の一冊に出会えるかどうか』だと思います。最近は、中学生くらいの子たちが友達と一緒に来店し、『あの本面白かったよ』と語り合いながら売り場を回っている姿をよく見かけます。以前は、一人で目的の本を探したり、好きなジャンルの棚を見て回ったりしながら、自分のペースで本を選ぶ方が多かったように思います。しかし今は、目的の本を買うだけでなく、新しい一冊との出会いを求めて書店を訪れる方も増えています。目当てのジャンル以外の本に触れてもらえる機会となるので、書店にとってうれしい変化です」
友人との体験共有だけでなく、家族のイベントとして書店での買い物を楽しむ側面もあると、森田さんは語ります。現場では、そんな光景を目にすることも多いそうです。
森田さん──「お母さんから月に一冊だけ好きな本を買っていいと言われて、家族の娯楽やコミュニケーションとして書店を訪れるご家庭も多いんです。その子にとっては月に一回のイベントですし、売り場を歩き回っていろんな本を手に取れるというのは、書店でしかできない体験ですよね」
こうした本との出会いを創出するために、コーチャンフォーではあえて「POPを最小限にする」という独自のフラットな売り場づくりを行っているそうです。
千葉さん──「POPをつけるとそこばかりに目がいってしまい、ある意味で書店側からの誘導が強くなってしまいます。私たちは、表紙や帯に込められた著者や出版社の想いを最大限に見せるため、フラットな目線で本を選んでもらえる売り場を心がけています。そのために、棚を高くしてできるだけ多くの本の表紙が見えるように設計しています」
書店側のこうした売り場づくりは、出版社側にとっても作品の魅力を伝えやすい環境につながっていると上條は語ります。スターツ出版では編集部とマーケティング担当が一緒になり、多くの表紙のデザインや帯のコピーを研究し、作品の表紙づくりに活かしていると言います。
上條──「私たちも、一目で作品の世界観が伝わる表紙づくりを大切にしています。本をあまり読まない子たちでも、書店で表紙を見た瞬間に『きれいだな』『気になるな』と興味を持ってもらえるよう工夫しています。SNSで作品の魅力を伝えることはもちろん大切ですが、書店で表紙をしっかり見せていただけることも、読者に作品の魅力を届けるうえで大きな意味があると感じています」
映像で惹きつけ、SNSで広げる。出版社と書店の連携が生む広がり
SNSでの話題作りと店頭での出会い。この二つを最大化するためには、出版社と書店の連携が欠かせません。特に最近は、映像を使ったプロモーションが店頭で大きな効果を発揮しています。
千葉さん──「YouTubeに慣れ親しんだ世代にとって、売り場のモニターで映像が流れていると、つい足を止めてしまいます。映像に釘付けになったお客様の視線の近くに関連書籍を配置するなど、映像を見た後に自然と本へ手を伸ばすような動線作りを意識しています。『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』の前作『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の映画化の際も、映画の販促動画をスターツ出版さんからお借りし、その周りに原作本や著者、汐見夏衛氏の作品をまとめて展開しました」
上條──「書店でのきっかけづくりを後押しできるよう、出版社としても映像素材には力を入れています。また、映像をきっかけに本を読んだ読者が、自分でも感想を発信しやすい環境を整えることも大切にしています。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の映画化でも、SNSで感想投稿キャンペーンを行ないました。こうした広がりが、結果的に書店の盛り上がりにもつながると考えています」
こうして映像やSNSの口コミをきっかけに、書店へ足を運ぶ若い読者が増える一方で、新たな課題も生まれています。普段あまり書店に行かない読者にとっては、「探している本がどこにあるのか」を見つけること自体が意外と難しいからです。だからこそ今、書店では、初めて来店した読者でも迷わず本と出会える売り場づくりが、これまで以上に重要になっています。
千葉さん──「本選びに迷う若い子たちには、入り口となる『初心者向けコーナー』のような案内を作ってあげることも有効です。出版社と書店がそれぞれの強みを持ち寄ることで、さらに読書文化を楽しく盛り上げることができるはずです」
映画化がもたらす新しい波。「品揃え」が作る書店と読者の信頼関係
こうした若者の読書熱をさらに後押しするのが、実写映画化などの大きなイベントです。
千葉さん──「『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の映画化のときもそうでした。映画の宣伝が始まると、目に見えて原作の売上が増え始めます。映画を見る前に原作を買うお客様が最も多く、公開直前の1週間ほどで大きなピークを迎えます。そこから約2カ月にわたって、売上が緩やかに推移していくのが一般的な流れですね。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は12月頭の公開でしたが、年末年始にかけて想像以上に広がって反響がありましたね」
そうして書店を訪れた読者に、次の一冊との出会いをどう生み出すか。千葉さんは、その鍵になるのが幅広い「品揃え」だと話します。
千葉さん──「書店を訪れる方たちは目的の本を買うだけでなく、書店という空間で『次の一冊との出会い』を求めています。そこに対して書店が意識しなければならないのは、『ここに行けば面白い一冊が見つかる』と信頼してもらうこと。そのための『品揃え』を充実させることです。そうしてお客様との信頼関係を育むことが、書店として何よりも大切なことだと思っています」
森田さんも、現場に立つ書店員としての思いを語ります。
森田さん──「映画をきっかけに当店に足を運んでくれた中高生が、目的の本だけでなく、その近くにある別の作品にも興味を持ってくれるような売り場を作り続けていきたいです。書店での最初の読書体験が良いものになれば、また書店に来てくれるきっかけにもなると思います」
こうした書店での出会いを、出版社としても後押ししていきたいと上條は語ります。
上條──「自社の作品が、普段あまり本を読まない中高生にとって書店へ足を運ぶ最初のきっかけになれたらうれしいです。書店が作ってくださる売り場の中で、読者が新しい本に出会い、本を読む楽しさに気づいていく。そんな流れをこれからも一緒に広げていきたいですね」
SNSで作品を知り、書店で次の一冊に出会い、映画化をきっかけにさらに関心が広がっていく。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』や『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』のように青春小説の映画化は、今の若い読者と書店をつなぐ入口のひとつになっています。
*映画情報*
350万人が涙した映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』待望の続編
8月7日(金)全国劇場公開!
映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』
シリーズ累計発行部数180万部を突破したベストセラー小説を映画化。2023年に映画化され、観客動員数350万人超となった大ヒット作品『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の続編であり、完結編。終戦の夏から現代に戻ってきた福原 遥さん演じる百合が高校教師となり、新しい出会いを通じてどのような変化と成長を遂げるのか。原作者の汐見夏衛先生も脚本に携わり、一部原作を変更した映画オリジナルストーリーです。
【あらすじ】空に消えた彰(水上恒司)との別れから7年。彰の夢でもあった高校教師になった百合(福原遥)は、忙しい毎日を送るが、彰への想いは、1945年の百合が咲く丘に取り残されたままだった。そんな彼女の前に、彰の面影を持つ青年・涼(細田佳央太)が現れる。臨時的任用教員として百合のクラスの副担任になるという。自分を真っ直ぐに想ってくれる涼に揺れ動く百合であったが、彰を裏切るようで、恋の一歩を踏み出すことができない。
葛藤の中、百合が出会ったのは、ホスピスで穏やかな余生を過ごす年老いた千代(倍賞千恵子)だった――。石丸(伊藤健太郎)を失った後、千代(出口夏希)が歩んだもう一つの愛の形。そして千代から百合に託されたのは、出撃直前の彰が遺した、未来の百合へ贈る一冊の本。そこに込められたメッセージとは…?
夏祭りの夜、星降る丘に奇跡が舞い降りる――。
>>原作『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』
>>『ノベライズ あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』
>>記事後半へ「『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』若者が求める“泣ける小説”とは? 現代の青春小説と読書の広がり」