レポート
新生スターツ陸上競技部の門出 ~プリンセス駅伝を戦い終えて~
スターツ陸上競技部
監督 弘山 勉
クイーンズ駅伝の予選である第10回プリンセス駅伝が終わり、スターツは、無事に予選を通過することができました。監督就任1年目の今年、私が、どんな想いで選手たちを指導し、どんなチームにしようと考えてきたのか、それらについて、道半ばではありますが、プリンセス駅伝に臨んだレポートと併せて記してみたいと思います。
新しいスターツ陸上競技部の始まり
11年振りに実業団陸上の世界に戻った私にとって、初めて挑戦するプリンセス駅伝は、久しぶりの女子駅伝。チーム状況が状況だけに、予選敗退の危機を感じるプレッシャーはありましたが、自分でも不思議なほど、楽しむ感覚になることができたように思います。こんな気持ちで迎える駅伝は、初めてのことで、とても新鮮でした。
『新生スターツ陸上競技部』=その表現は、私が監督に就任してから、私たちチーム全員の中にある共通の認識です。新しいスターツ陸上競技部が新たなスタートとして挑んだプリンセス駅伝ですから、選手にもスタッフにも、少々特別な想いが宿ることになりました。“新たな門出”のような大会というのが近い表現かもしれません。そう思うのは、当然の成り行きだったと思います。
私の年齢からして、人生最後の転職になるかもしれない覚悟で入社したスターツコーポレーション。そのスターツの社名「STARTS」に込められた意味を知るほど、今の陸上競技部と私にとって、とても共感できる“企業の願い”だと感じています。
――――<スターツグループHPより>――――
スターツグループの社名「スターツ」は、「様々なスタートが集まる会社」という意味です。企業テーマは「お客様に新しい生活のスタートを提供し、自らも常に新しいスタートを切り続ける活性化集団であり続けること」です。
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新監督を代表とする新旧のメンバーが織りなすスターツ陸上競技部が、新しいスタートを切った4月。スターツの社名に込められた想いを具現化する活動が始まりました。
「このチームは、どんな色になるのだろう?」という高揚感、指揮官の立場で言えば「どんな色に染めていかなければならないのだろうか」という使命感、初対面の選手たちとの協働は、心躍るような気持ちと監督としての責任感が交錯するようなかたちで始動したのです。

心掛けたスロースタート
そんな意気込みに溢れていた私ですが「選手それぞれの特徴を徐々に把握していきながら、能力を伸ばす方法を考えていけばよい」とスロースタートを心掛けるようにしました。筑波大学で男子学生を指導してきた私にとって、指導対象が女子選手となることから、まずは自然体で進んでいこうと心に決めていました。
それは、チームに存在する「文化や風土」。そのことについて考えた場合、そう簡単なことではないことは予め分かっているからでもあります。監督が代わったから・・いろんな選手がいるから・・と、その時々でチーム文化が変わるようではいけません。スターツというチーム(広義では企業)文化は不変でなければならないはずです。

ただ、それが存在するのか・構築しなければならないのか、で随分と話は変わってきますから、先入観や固定観念は持たずに、ゆっくりと進んでいくべきだと考えていたわけです。
新生スターツ陸上競技部を率いる上で、とても大事なことは、決してブレることのないポリシーの存在だと思っています。スローガンやコンセプトでもよいですが、やはり、ポリシー(ここで使う意味は信念)かな、と。これは、監督が操作するという感覚では駄目で、根付くものだと思うからです。
「チームは何のために存在するのか」「チームは何を実現しようとするのか」という大義、それに加味されるべきが「スターツらしさ」ということになります。それを全員がわかっていることが重要になってくるでしょう。

スターツ陸上競技部のスローガン
スターツ陸上競技部は、2000年のシドニー五輪で高橋尚子さん(現・スターツ陸上競技部アドバイザー)の女子マラソン金メダル獲得を機に発足されたと聞いています。スターツが陸上競技部を創部したオリジンは「挑戦=スターツから世界へ!」、つまり、選手が夢に挑戦するチームだということです。
スターツでは、これを企業ロマンと表現しています。「大きな夢を持ち続け実現することが、スターツ社員全員の企業ロマンです」というものです。そのことを知った私は、嬉しくなりました。世界を目指す選手の夢をサポートし、共に歩む企業。まさしく私が“目指したいもの”が、チームの根底には存在しているのです。
とはいえ、すぐに世界へ!とはなりません。世界へ続く長い道のりのスタート地点に、私たちは立ったに過ぎないのですから。そんな背景を感じながら、私は、プリンセス駅伝でやりたいこと・やらなくてはいけないことを少しづつ考え始めるようになりました。

再挑戦というスタート
面白いことに、4月に入社した選手の中に「伊澤菜々花」がいます。知る人ぞ知る“インターハイチャンピオン”ですが、でも、33歳。数年のブランクを経ての現役復帰です。そんな彼女が「私にはやり残したことがあります。マラソンで世界を目指したい!」と入社を強く希望してきました。
「弘山監督なら、私を世界への挑戦に導いてくれると思っています」と、入社前に面会した際に、輝く目で訴えてきました。この覚悟は“本物”であると思いました。私の直感です。
そのことを会社に伝えると、彼女の新たなスタートを支援できるなら、喜んで!と快諾してくれ、無事に伊澤菜々花の新しい挑戦がスタートしました。2024年4月、スターツグループに存在する様々なスタートの中の一つ「伊澤菜々花の再生」がひっそりと動き始めたのです。

4月から始まった新しいスタートは、何も伊澤だけではありません。チーム内にいくつもあります。
・実業団での再挑戦を誓う新監督が就任、新生スターツ陸上競技部が動き出した
・4月入社のルーキーたちが社会人としての新たな挑戦を歩み始めた
・伊澤菜々花が現役復帰しての再挑戦がスタートした
・すでに在籍していた選手にとって新たな挑戦が始まった

スタートの鍵を握ると考えたプリンセス駅伝
こうして始まった「いくつもの挑戦=スタート」それらを逐一語ることはしませんが、ここでは、プリンセス駅伝がスターツ陸上競技部の新たなスタートに関係していることをお伝えしたいと思います。
8月のチームミーティングにおいて、私は選手たちに、プリンセス駅伝の目標について初めて伝えました。
-5区まで先頭を走ること-
案の定「冗談でしょ」と言いたげに笑う選手がいました。「そんな大それたこと考えたこともない」と驚いたような反応を見せる選手もいました。それは当然です。8月までの4ヶ月間、順調に練習できている選手は6人だけで、そうプリンセス駅伝の出走選手数と同数だったからです。私が宣言しなかったら、このチーム、このメンバーで5区まで先頭を走ることを想像すらしなかったでしょう。

それが可能である根拠もきちんと示しました。やればできるし、成し遂げようとするから楽しいんだ、ということ、それが競技であること、などを伝えました。その後は、真剣な眼差しに変わった気がしますが、本心は見えません。
ただ、プリンセス駅伝を意識し始める夏季強化合宿において、目指すべきものが漠然としたものであってはなりません。「こんなことできるの?」という気付き、目線を上げて世界を見ること、毎日勝負することを意識する機会になったと思います(願いました)。

心技体のレベルアップは心が牽引する
それに真摯に向き合おうとしたのが伊澤でした。ある時、1か月後の会話の中で彼女が言いました。「弘山監督に示された1区区間賞、2位に20秒差をつけるということばかり考えていますよ」と苦笑いしながら。
プレッシャーをかけていることはわかっています。ですが、選手自身が「何を目指して練習するのか?」さらに言うなら、駅伝を通して「自分の夢に近づくために、自分をどう成長させるのか?」そのことを明確にできなければ、目標や夢に到達することは絶対にできません。
指導者たる者、万人を強くできなければならない、と思っています。全ての選手が、同じポテンシャルを有しているとまでは言いませんが、カラダは自分たちが感じるよりも同じレベルです。何で差がつくのか?それは、心技体です。心と技、体は、それぞれにレベルがあり、互いに影響し合う関係でありながら、結局は三位一体なのです。心技体を三位一体で捉えて、レベルアップしていかないと競技力は向上しないと思っています。
これは筑波大学を指導してきて感じたこと。簡単に言うなら、自分で限界を決めないこと、つまり、三位一体で殻を破ることです。その時に、明確な目標=成し遂げたい目標を高い位置に設定し、本気で成し遂げたいと思う「心の牽引」が重要になってきます。

自分たちが勝負する領域へ
伊澤が1区をトップで走り切り、2区から先頭争いができると、自分たちが目指す世界を経験できます。想像だけでは決して得ることのできない体験。2区以降の戦いがリアルなものとして自分の身に降りかかってくるのです。
そこで見る景色は、後方でレースを進めるより、遥かに夢のある世界です。まだ、実力が足りない選手でも、駅伝ならば、自分たちが勝負したい領域に足を踏み入れることが可能です。だから、5区まで先頭を走ることを目標にしたのです。
残念ながら、足の不調を抱える選手が数人いて、準エースの欠場もあって、実現しませんでしたが、可能性としては、十分にあったと思っています。
先頭で戦えれば、レースを戦うことの楽しさを感じる。戦えなければ、レースで戦うことを楽しむための準備が不足していたことを心から後悔することになります。そこで戦えた・戦えなかった、どちらにしても、その後の活動や取り組みに影響を与えます。
新生スターツ陸上競技部がプリンセス駅伝を終えての今後
1区で約束通りに区間賞を獲得した伊澤は、現役復帰と再挑戦のスタートが幸先良いものとなり、自分が目指すマラソン日本代表を見据えることの現実味が帯びてきました。他の選手は、新生スターツ陸上競技部が目指す姿を感じることができたのなら、それぞれにある「心技体の課題」に真摯に向き合っていくはずです。
私は、選手たちに「今まで何を目指してきたか?」「これから何を目指すのか?」「戦うとはどういうことか?」の問いかけを続けていきます。

今回のプリンセス駅伝で、私が選手たちに感じてほしかったこと、それは「目標設定が重要であり、同時に本気度が求められる」ということです。そのどちらも問題なかった時に初めて、方法論と努力度が評価できるのです。「目標を決める・準備をする・結果が出る」そこで、どう評価して、何を感じて、自分をどのように成長させるのか?この作業は、夢を叶えるまで繰り返されるのです。
夢に近づくほど、選手の情熱は大きなものとなり、夢を叶える原動力(エネルギー)は増幅されていくはずです。そんな選手でスターツ陸上競技部が埋め尽くされれば、競技を通して、スターツらしさを表現できると思っています。
人と心を大切にし、常に新しいスタートを切り続ける活性化集団であり続けること(スターツグループHPより)
新生スターツ陸上競技部にとって初挑戦となったプリンセス駅伝を経て、活性化したチームとして、次の新たなスタートが始まっています。そんな変化が、すでに見られました。
フォームに課題のある一人の選手が、先日、土砂降りの中、上手くできないドリルを個別で繰り返し繰り返し練習している姿を見かけたのです。こういう選手は、必ず成長していきますし、私も伸ばしてあげたいと強く思います。
スターツ陸上競技部の今後の成長をお楽しみに!
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