2025年8月29日
豊かな「まち」の魅力を伝えるために
雑誌編集者がワイン造りに挑戦

不動産事業を中心に総合生活文化企業として、さまざまな事業を展開しているスターツグループには、スターツ出版という出版社があります。東京メトロの駅構内で10万部を配布するフリーマガジン『メトロミニッツ』は、スターツ出版が手掛けるブランドのひとつ。日本各地のローカルな魅力を都心で発信するメディアとして、地域の活性化や地方創生に取り組む自治体の支援活動を行っています。そしてその取り組みの一環として2025年6月、メトロミニッツがオリジナルワインを発表しました。フリーマガジンがワインを造るに至った経緯と想いを、みずから畑に赴きブドウ作りから関わった編集部の松島に話を聞きました。
目次
日本ワインの動向に着目し、
その魅力を伝えてきたメトロミニッツ
『メトロミニッツ』では毎年「日本ワインの現在地」というテーマで特集を組み、年々盛り上がりを見せる日本ワインの現状を、誌面を通じてお伝えしてきました。注目のワイナリーの紹介、造り手の方へのインタビュー、日本ワインが楽しめる東京の飲食店紹介といったコンテンツから派生して、その生産地の文化や魅力を知ってもらうことを目的のひとつに据えた企画です。その特集を担当しているのがメトロミニッツ編集部デスクの松島。編集者であり、ワインにまつわる高度な知識やテイスティングなどの能力が必要となる「ワインエキスパート・エクセレンス」の有資格者という一面を持っています。

松島───「スターツ出版に入社した当初はオズモールのレストラン事業部に在籍していました。当時は各担当一人ひとりが予約サービスの参画店を増やすための営業や、お店紹介の取材もして、原稿の執筆も一貫して行っていたのですが、ホテルやレストランの方に取材したり、さまざまな交流を持つ中でたくさんおいしいワインを紹介してもらったりして、ワインへの興味がどんどん広がっていきました。ワインのことをもっと知りたくなって、ワインスクールに通ったりしたのですが、どうせやるなら資格も取ろうと。資格を目標にするとおのずと世界中のワインを勉強しながら、まだ見ぬ素敵なワインに出会えたらいいなと夢見ていました笑」
編集者としてだけでなく、ワインの専門家としての視点を持つ松島から見ても、いま日本ワインはとても面白い状況になっていると語ります。

松島───「同じ特集のテーマを組み継続して記事を掲載することは、実はメトロミニッツでは珍しいのですが、日本ワインは定点観測的に特集を組む価値があると考えています。そもそも『日本ワイン』という言葉が定義されたのが2015年で、日本国内で収穫されたぶどうのみを使用し、日本国内で製造されたワインのみを『日本ワイン』と呼ぶことができます。2015年時点からワイナリーの数は10年で約2倍となり、現在は500カ所以上に。2026年には、47都道府県で唯一ワイナリーのなかった佐賀県にも、新たにワイナリーがオープンするとのことです」
フリーマガジン『メトロミニッツ』のコンセプトは”豊かな暮らしのヒントはローカルの日常にある”。このコンセプトを体現するのに日本ワインはぴったりなテーマだと松島は語ります。そしてワイナリーの数だけでなく、ワインの品質も年を追うごとに向上しているそうです。

松島───「日本酒やビールと違って、ワインは水を入れず、ぶどうだけで造られるお酒です。その土地で育てたぶどうを、野生酵母を使って醸(かも)して造る。その土地ならではの手法でワインを表現している造り手さんが増えているのが特徴で、年々美味しくなっているという印象です。例えば、ワイン造りが学べる学校ができたり、少量でもワイン造りに挑戦できる「ワイン特区」というエリアが日本各地に作られたり。そういった環境が日本ワインの質を引き上げている要因だと考えられます。そして何より造り手のみなさんが情熱を持ってワインを造っている。ワインの美味しさはもちろん、その想いを伝えるべく取り組んでいます。」
日本ワインの美味しさと、地域の魅力をもっと多くの人に。
そのためのオリジナルワイン
日本ワインはその土地の風土と、その地域で暮らす造り手の想いが結実したもの。松島が全国のワイナリーを取材し、日本ワインを追いかける中で、雑誌の誌面だけでは伝えきれないもどかしさを感じていたといいます。
松島───「ワインは1年かけて造るもの。ぶどうを育て、収穫し、発酵させて、熟成させて、ボトルに詰めて…。そうして初めてワインはできあがります。だからこそ雑誌の中でワイナリーを紹介したり、ワインを紹介するだけでは、その営みが伝えきれないと感じていたんです。ワインの裏側にある造り手の日常を知ると、ワインがもっと美味しく感じられるはず。多くの人にそんな体験をしてほしいと思っています」
造り手の顔が見えるとよりワインも美味しく感じられるというもの。ぶどう畑から私たちのもとに一杯のワインが届けられるまでの物語を伝えたい。「しかし、どうしたら?」 松島はある人の言葉を思い出しました。

アパチャーファーム&ワイナリーの田辺さん。東御市は山に囲まれているため晴天率が高い
松島───「以前、取材させていただいた長野県の東御市(とうみし)にあるアパチャーファーム&ワイナリー(Aperture Farm and Winery)の栽培醸造家・田辺良さんに『いつか1年を通してちゃんとワイン造りに携わりたい』とお話しした時、『じゃあ僕の畑で一緒にやりませんか?』と言ってくださっていたんです。メトロミニッツが2021年に日本のさまざまな地域の魅力を伝えるフリーマガジンとしてリニューアルしてから、特集で日本ワインのことを伝え続けてきたことで、実現できる下地ができたと編集部内で話し、月に一回ですが編集部が畑に入ってワイン造りのお手伝いをするという企画を立てました」
アパチャーファーム&ワイナリーは2022年8月に開設された新しいワイナリーながらも、リリースされるワインは即完売。その品質の高さから、世界8か国に輸出されています。化学肥料、殺虫剤、殺菌剤も使わないナチュラルな作り方は、まさに「自然との対峙」だと田辺さんは語ります。

アパチャーファーム&ワイナリーのワイン
松島───「東御市はもともと巨峰が名産品だったのですが、多くの農家さんは消費者人気の高まりなどを受けてシャインマスカットに切り替えてしまっている。そこで田辺さんはメトロミニッツと組み、巨峰から美味しいワインを造ることで巨峰の魅力を再発信できたらと、今回の企画のために畑を一区画貸してくださいました。そこでオリジナルワイン用の巨峰を育てはじめました。6,400房のぶどう一つひとつに手を掛けて、毎日東御市の天気が気になって仕方がなかったです」
晴天率と標高が高い東御市。昼の暖かさによりぶどうは糖を蓄え、標高が高く夜は涼しいためゆっくり成熟し酸が落ちにくいという、よく耳にする「ワイン造りに適した寒暖差のある気候」を肌で感じたと言います。

スマートフォンを超える大きさの巨峰に。一か月前は3.5cmほどの大きさだったそう。6,400房ひとつひとつに直接雨があたらないよう傘をかける作業

収穫の予定日は台風の心配もあり毎日のように天気予報をチェックしていたそう
完成したワインのお披露目パーティを開催
2024年の春から畑に入り、同8月に収穫、その日のうちに仕込み(発酵開始)、同9月にプレスして発酵したワインを搾り出し、樽に入れて半年間熟成。そうして出来上がった巨峰のワインはフランス・ブルゴーニュ地方の「ピノ・ノワール」が入っていた樽で熟成させた「日々 2024」と、アパチャーファーム&ワイナリーの「メルロ」が入っていた樽で熟成させたワインに10%だけ白ワインをブレンドしてより違いを際立たせた「きざし 2024」の2種類。

左が「日々2024」、右が「きざし 2024」。名前は編集部でアイデアを出し合い、ラベルには坂内拓さんのイラストを採用
松島───「本当はどちらかの樽を選ぶ予定だったのですが、選びきれず『半分に分けて両方の樽にいれたいです』と田辺さんに頼み込みました(笑)。できあがったワインをブレンドする予定だったのですが、もとは同じ液体だったのに全く違う仕上がりになって、田辺さんからも『一緒にするのはもったいない』と、それぞれの特色を活かすべく別々のワインとしてリリースすることにしました」
この2つのワインのお披露目会は2025年7月19日に開催。オズモールにて先着で参加者を募ると、そのチケットは即完売。そのお披露目会にはアパチャーファーム&ワイナリーの田辺さんも駆けつけトークショーも実施し、およそ100名の参加者にワインを振舞いました。

イベント時のトークセッションの様子。写真左が田辺さん、右が編集部の松島
松島───「参加者の方からは『ワインの造り手や産地にそこまで身近な印象がなかった。日本ワインの魅力を知るよい機会となった』という感想を多くいただきました。一杯のグラスの裏側にあるストーリーを伝えるという目的は達成できたかなと。田辺さんもご参加いただいた皆さまが美味しそうに飲んでいる姿を見て『ほっとした』とおっしゃっていました。また『巨峰でこんな美味しいワインが造れるの!?』と驚いていた方も多く、ワインを通じて巨峰の魅力や東御市の魅力も伝えられたのではないかと思います」

今後のこのワインの活用について聞いてみました。
松島───「ボトルで販売することも検討していますが、今回の目的は『日本ワインの美味しさを多くの人に知ってもらうこと』。ボトルで買うのはハードルに感じる人も多いですし、例えばイベントでグラスに分けてよりたくさんの人に飲んでもらえるような施策を考えています。メトロミニッツのInstagramで情報を発信していきますので、ぜひフォローしてお見逃しなく」とのこと。
ワイン造りを通じて、造り手の想い、その地域の魅力を伝えた今回のオリジナルワイン。例えば他の特産品やその加工品であっても、その背景にある物語を伝えるのは難しいことですが、そんな難題に向き合い続けてきたメトロミニッツは、地域を一緒に盛り上げる一助になれるかもしれません。地域の課題解決や地方創生に、誌面作りに留まらない編集者の企画力の活用をぜひご検討ください。
>>ワインだけでなくカルタもプロデュース。高知県の事例はこちら
https://www.starts.co.jp/column/article21/
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