2025年11月28日
スケートボード・パーク女子 草木ひなの選手の強さの秘密。
折れない心と独創的な“スタイル”
中学1年生にして日本スケートボード選手権大会の舞台で初優勝を飾って以来、世界のトップシーンで活躍を続けているスケートボーダー、草木ひなの選手。その強さの源は、大舞台でも物怖じしない度胸と、観る者を魅了する独創的な“スタイル”にあります。なぜ彼女はプレッシャーのかかる場面で力を発揮できるのか、そして世界一を目指す彼女がいま見据えるものとはなんでしょうか。若き才能の現在地と、スケートボードへの熱い想いに迫ります。
目次
自分でも驚きの結果に。中学1年生で掴んだ日本選手権女王の座
スケートボードの世界に「草木ひなの」の名が大きく知られるようになったのは2021年。彼女が中学1年生の時でした。それまで本格的な大会への出場経験はほとんどありませんでしたが、本拠地としていたスケートボードパーク「AXIS」の仲間に後押しされる形で出場した日本選手権で、彼女は周囲の予想を裏切る快進撃を見せます。
草木───「自分でもびっくりしました。『予選も通るかわからない』という気持ちだったのですが、予選1本目をフルメイク(ボードから落ちることなく滑り切ること)して勢いが付いて。『とにかく攻めていこう!』と思って臨んだ2本目ではファイブフォーティ(空中で540°回転する大技)にチャレンジしました。当時は練習でもなかなか成功できなかった技だったのですが、不思議と決まって…。でも、実は1本目で予選突破は決まっていたことに気づいていなかったんです。みんなに『なんでやったの? やる必要なくない?』って驚かれました(笑)」
“考えるより先に動くタイプだった”と当時を振り返る草木選手。その怖いもの知らずのスタイルは、決勝の舞台でも変わることはありませんでした。持てる技をすべて出し切り、見事優勝。いきなり日本の頂点に立ったのです。
この衝撃的なデビューは、彼女自身にとっても大きな転機に。自分の実力が国内トップレベルにあることを自覚するきっかけになりました。その後、草木ひなの選手は国内の大会で次々と結果を残し、活躍の舞台を世界へと広げていくことになります。
世界が認めた才能。大舞台で発揮される「本番での強さ」
2023年に出場したドバイで開催された世界選手権では、自分の力がどこまで通用するのか、期待と不安が入り混じる挑戦でした。しかし、ここでも彼女は周囲の想像を軽々と超えていきます。準々決勝を1位で、準決勝を2位で通過し、世界の強豪と互角以上に渡り合ってみせました。
草木───「自分でもどこまで行けるか分からなかったのですが、いろんな歯車がうまくはまってくれて。『私、世界で戦えるかもしれない』って、その時に初めて思えました。すごく勇気をもらえましたね」
2023年のドバイで開催された世界選手権でお守りを掲げる草木選手
この大会で得た自信は、彼女をさらに大きく成長させました。翌年、オリンピック選考会を兼ねたイタリアで開催された世界選手権では2位入賞。初めて世界の舞台で表彰台に上がるという快挙を成し遂げます。なぜ彼女は、大舞台になればなるほど力を発揮できるのでしょうか。
草木───「自分でもあまりわかっていない不思議な感覚なんですけど、自分のランが始まるまでは不安があっても、始まった瞬間に『あ、これは乗れるな』って思うことがよくあって。フリップインディ(板を回転させて掴む技)とかも、板をキャッチした瞬間に『あ、これ乗れる!』って、わかるんですよね」
練習では1週間に1本しか成功しなかった大技も、決勝では3本すべて成功する。周囲からは“本番に強い”と評されますが、土壇場で最高のパフォーマンスを発揮できるその勝負強さこそ、彼女が世界のトップで戦い続けることができる最大の武器と言えるのかもしれません。
応援を力に。スターツとの出会いとスケートボードへの新たな決意
そんな草木選手は、2024年にスターツと契約。所属アスリートになり、2025年で約1年になります。その出会いは、些細なきっかけだったといいます。
草木───「私がNHKの番組に出ていたのを、スターツさんの社員の方が見てくれていて、『会社として応援したい』と社内でアピールしてくださったそうなんです。私がよく練習をしている茨城県笠間市でスターツさんもゴルフ場を運営しているといった思わぬご縁もあったと後から聞きました。地域を大切にしてくれるのは、茨城県出身者としても嬉しく思いますね」
他にもテレビを通して草木の活躍を知っていたスターツ社員は多く、2024年に出場したパリオリンピックの出発前に日本橋にある本社を訪れた際には、社員たちから温かい歓迎を受けたそうです。
草木───「『本当にファンです!』って優しい言葉をたくさんかけてくださって嬉しかったです。考えてみれば当然のことなんですけどいろんなところで、いろんな方が見てくれているんだなっていう実感を持つことができました。いつもスターツの皆さんは『そんなこと気にしなくていい』って言ってくださいますが、もっと活躍して恩を返さなきゃなって思います」
多くのサポートは、ともすればプレッシャーにもなってしまいます。しかし、草木選手はそれをポジティブなエネルギーに変換する力を持っていました。
草木───「プレッシャーとは、余り思わないですね。むしろもっと頑張ろうという原動力になります。プロとして所属させていただいている以上、普通は成績を求められると思うんですけど、『ひなのちゃんが楽しめているのが一番だから』っていつも言っていただけるので、今が一番楽しい!っていう姿を、もっともっと見ていただこうって思いますね」
目指すは唯一無二の存在。「世界一」の先に見据える夢
草木選手の目標は明確です。「世界で一番になること」。それは、幼い頃からずっと変わらない夢だと語ります。ワールドチャンピオンシップ、X Games、そしてその先にある2028年のロサンゼルスオリンピック。全ての舞台で頂点を狙っていくと意気込みます。
草木───「この前のパリオリンピックではすごく悔しい思いで終わってしまったので、まずはロサンゼルスの出場をつかみたいですね。でも、やっぱりオリンピックともなるとプレッシャーがすごいのも事実です。世界一を目標にしながらも、今はまだ、もう少し近くの目標を考えて滑るようにしています。何事も積み重ねが大事。とにかく“今”が一番楽しいって思えるようなスケートボードをしていきたいです」
ランキングやポイントに一喜一憂するのではなく、目の前の一本一本を楽しみ、最高の滑りを追求する。その先にこそ、世界一の称号があると草木選手は信じています。そして今、そのための秘密兵器となる技も磨いている最中だといいます。
草木───「実は今、誰もやったことがないトリックを練習しています。オリジナルなので名前はついていないんですけど。まだ完成していないので、もうちょっと秘密にさせてください(笑)」
またあらたな挑戦に乗り出していることからも、彼女が目指すのが単なる「強い選手」ではないことがわかります。なぜなら、彼女にはもう一つの大きな夢があります。
草木───「トップスケーターといえば?って聞かれたときに、最初に名前が出てくるようなスケーターになりたいと思っています。そのためには、まだまだ足りないこともたくさんありますが、もっとたくさんの人に知ってもらえるような存在になれたら嬉しいですね」
人々の記憶に残るスケーターという自分らしい"スタイル"を目指して、草木ひなの選手の挑戦はまだ始まったばかりです。