2025年5月30日
編集者×マーケターで二人三脚
スターツ出版のマンガ作りの舞台裏

実写映画化された『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』、シリーズ累計500万部を超える『鬼の花嫁』、2025年6月には小説『青春ゲシュタルト崩壊』の実写映画が公開されるなど、いまスターツ出版が手掛ける作品がさまざまな形で世の中に広まっています。スターツ出版では、小説投稿サイトを起点とした出版ビジネスを行っており、ユーザーが小説投稿サイトに投稿した作品を編集者が発掘し、書籍・コミック・紙・電子など形を変えて世に送り出しています。人気作品の裏側には作家さんの作品にかける熱量と、編集者の「伝えたい」という想いはもちろん、マーケティング担当(マーケター)の「届けたい」という想いが必要不可欠。編集者とマーケターが二人三脚で作る、マンガ作りの裏側を、グラストコミックス編集部・佐藤優里奈と、出版マーケティング部・井上大烈に聞きました。
目次
新卒でコミック編集者に配属
漫画の第1話できるまで

スターツ出版㈱:井上(写真左)/佐藤(写真右)
スターツ出版には世界観や読者ターゲットごとに異なる3つの投稿サイトと、小説とコミック合わせて20以上のレーベルがあります。その中で『グラストコミックス』というコミックレーベルでは、「最強の仲間がここに!」をテーマに男性向け異世界ファンタジーコミック誌『comic グラスト』を2021年5月に創刊し、そこで連載しているコミックを発売しています。
今回、話を聞いた佐藤は新卒でスターツ出版に入社し、社会人1年目からグラストコミックス編集部に配属されましたが、当然ながらマンガ編集は未経験。配属から3年が経ち、ようやくコミック編集の仕事をひととおり経験できたと言います。
佐藤───「マンガは好きで読んでいましたが、いざ作る側になってその大変さに驚きました。私がメインで担当しているのは、小説をコミカライズ(コミック化)することなのですが、最初は先輩に教えてもらいながら、見よう見まねでとにかく目の前の1話を仕上げることで精一杯でした」
スターツ出版のコミック編集の大まかな仕事の流れは、原作となる小説を探しコミカライズにおける骨子を固めて企画を立案し、企画が通ったら原作に合った漫画家さんを探すという流れ。実力のある漫画家さんとなると大手出版社も交えての争奪戦で、原作とマッチする作家に仕事を受けてもらうのも大変な苦労があります。そうしてマッチングできた作家さんとキャラクターデザインなどビジュアルを協議。続いてストーリーの展開や、一冊の小説を何話のマンガに分けるかを決めるプロットの作成。ここで作品の世界観や舞台設定、キャラクターの性格など細かい部分まで詰めていきます。そして、マンガの下書きの前段階となる「ネーム」を作成しコマ割りやセリフを決め、下書きでキャラクターの表情など細かいチェックをした後に、本番のマンガ原稿に取り掛かるそう。ちなみにマンガ原稿の吹き出しにはセリフが入っておらず、書体を決めて文字を入れるのも編集者の仕事。コミカライズが決定してから第1話がリリースされるまで、最低でも半年間はかかるといいます。
佐藤───「その中でも私が大事だと思っているのはプロットを作る工程です。小説からコミックにする際に、そもそも何を伝えたい作品なのか、山場はどこで、主人公は何に悩み、どんな壁を乗り越えて成長するのか…。そこが漫画家さんと共通の認識を持っていないと、ネームの書き直しが何度も発生してしまうという事態に。漫画家さんにも申し訳ないですし、思い通りのネームが上がってこないのは編集者の責任なので、一番時間をかけています」

良いプロットを作るために必要なのは、原作者さんや漫画家さんととにかく話すことだと佐藤は語ります。例えば、原作者さんに「主人公は目の前に壁があったら拳から血を流すまで叩いて壊すタイプか、頭をひねって避けて通る道を探すタイプか、それとも誰か助けを呼んでくるタイプでしょうか?」と聞いてみる。作品にそんなシーンはないけれど、主人公の性格を深掘って理解するためによく聞く質問。原作者さんとの会話から得た主人公の人物像を漫画家とともに語り合う。良い作品を作るため、佐藤はそういったコミュニケーションを大切にしているそう。
佐藤───「3年間の編集経験を経て『言語化』の大切さを痛感しています。原作に秘められた想いを作家さんから引き出すのも、それをどんな漫画にして読者に何を伝えたいのかを漫画家さんと共有するにも。編集者になりたての頃は目の前の1話のことしか考えられませんでしたが、今では作品全体を通しての魅力を定義して、それを言葉にできるようになりました。それはプロモーションを仕掛ける際のキャッチコピーや、帯の言葉を考えて、出版マーケティング部と連動する際にも役に立っています」
市場調査や書店営業だけではない
マーケティング担当の大事な役割

完成した作品を世の中に広げるのが出版マーケティング部の仕事。書店営業、流通・販促支援、SNSを使ったプロモーション施策の企画、さらに書店の販売データや競合他社の調査データを編集部に共有し作品作りの支援をするといった業務を行います。

井上───「どんなに良い作品でも読者にその存在を知ってもらわなければ読んでもらえません。作品の魅力を編集者と共有し、適した販売戦略を立てる。作品の魅力を書店員さんに伝えて、売り場でプッシュしてもらう。佐藤さんが編集した『魔術を極めて旅に出た転生エルフ、持て余した寿命で生ける伝説となる』は書店員さんにとても好評で、きっとこれから多くの人に読んでもらえる作品になると思っています」
この作品は、何かに本気になることがなく、自分が生きた証を残せていないと悔いを残したまま交通事故により30歳で亡くなってしまった主人公が、1000年も寿命があるエルフに転生。魔術を懸命に学び、安住の地を離れて旅をするという物語。主人公のリースが旅をし、出会いや別れを通じ“自分が生きた証”をどのようにとらえ、何を残すのかが読みどころ。本作品のメインターゲットは井上と同じ40代の男性。そんな井上の存在が、編集の佐藤にとって心強いのだそう。
佐藤───「読者ニーズの傾向を分析やヒット作のトレンドの考察を教えてもらえるのはもちろんありがたいのですが、ターゲットの気持ちになってしっかり読み込んだ上で、率直に言ってくれる感想がとても参考になるんです。主人公リースの成長に大きく関わってくるヒロインのミノリを『かわいい』って言ってもらえると、きっとターゲットの読者にも刺さってるんだなとか。『魔術の描き方の迫力がすごい!』と言ってもらえたら、そういうところに注目するんだって気付かされます。それを漫画家さんに伝えることで魅力が研ぎ澄まされて、話が進むごとにどんどん面白くなってくる。プロットやネームの段階でも井上さんには読んでもらって、意見をもらうようにしています」
書店の売り場に置かれる販促用のPOPや什器を作るのもマーケティング担当の仕事。そのPOPの表現が、編集者にとって作品の新たな魅力を発見するきっかけにもなっているそう。
実はこういった編集者とマーケター(他の出版社では販売担当、書店営業担当と呼ばれることが多い)とのやりとりは業界でも珍しいこと。一般的には編集者が“作る人”、販売担当は“売る人”と、それぞれの領域がきっぱり分かれ、中には互いに口を出さないというケースもしばしば。スターツ出版では作品に対して編集もマーケターも意見を言い合い、表紙を決める際にも部署をまたいで話し合いながら決める。レーベルごとに佐藤と井上のようなパートナーシップが自然と構築されているそうです。
井上───「人物や背景を描いて、トーンを貼って…、2ページ書くだけでも1日かかってしまうくらい漫画家さんの作業は大変。小説に込められた原作者さんの想いに共感し、編集者とのやりとりの中で『面白い漫画になる』と確信が持てるからこそできることだと思うんです。その熱を冷まさずに、どうやったら熱いまま多くの人に届けられるか、売り場での展開やSNSなどできることは全てやりますが、『どこかにもっと届けられる人はいるんじゃないか』と終わりがないですね」

佐藤───「編集担当もマーケターも両者に共通しているのは漫画家さんを本当に尊敬しているということ。物語の展開を考えて、絵をかいて…、これって別々の才能だと思うんですけど、漫画家さんはそれを両方持っている。そしてプロットやネームを経て、私が想像していたものよりも素晴らしい原稿が上がってくる。それを最初に読めること、『ここが最高でした!』という感想を直接言えること、こんなに幸せなことはないですね」
もっと多くの人に読んでもらいたい
自信を持っておすすめする作品の魅力は?

目を輝かせながら語る佐藤に「この仕事で一番辛いことや苦労したことは?」と聞いてみると、「想定していたよりも読んでもらえていない時ですね。こんなに面白いのに、もっともっと多くの人に読んでほしい。どうしたら読んでもらえるのか、いつも井上さんと頭を悩ませています。売れたら辛いことも苦労も報われます」。仕事で夜遅い日が続くこともある編集の仕事。時に互いの作品に対する想いが先行し漫画家さんと異なる意見をすり合わせなければいけない場面もあります。先ほど工程を大まかにご紹介した通りやることも膨大。しかし佐藤は「私は漫画家さんに恵まれているんです。漫画家さんが表現したいことを、より多くの人に伝わるように編集するのが私の仕事」と語ります。コミカライズ決定から半年でリリース、1カ月に1話で3年でおよそ25話、コミック5巻分。一連のコミック作りの仕事を経験した“一人前”の編集者としての言葉です。
佐藤───「『魔術を極めて旅に出た転生エルフ、持て余した寿命で生ける伝説となる』は、寿命が1000年もあるエルフが寿命のある人間と関わっていく“寿命差”がテーマになっています。生きる時間の違いがあるからこそ主人公は命に対する切なさを感じ、「人間なんてどうせすぐ死ぬ」という価値観が変わっていく。その一方で、魔術を極め、敵を寄せ付けない無双感が読む人にとって爽快感を与えてくれる。さらっと読めるけど“生きた証ってなんだろう?”と考えさせられる。そんな作品になっています。きっと読み始めたらどんどん引き込まれていくような魅力があるので、ぜひ第1話を読んでほしいです」

原作の小説を書いた榊原モンショーさんも、漫画家のkancoさんの物語の理解力を称え、新しい話を楽しみにしている読者のひとりになってくれているとか。書店からも「サイン本を置きたい」というアプローチもあり、業界での評価も高いこの作品。今回ご紹介した裏側を知ったうえで読んでみると、より面白く感じられるかもしれません。
>>『魔術を極めて旅に出た転生エルフ、持て余した寿命で生ける伝説となる』
第1話、第2話無料公開中/
https://novema.jp/comic/serial/n105
ジャンルや年齢を問わず、誰でも無料で小説を読む・書くことができる小説投稿サイト『ノベマ!』/
https://novema.jp/
- 営業時間
- 9:00~18:00(土・日・定休)
- URL
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