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Global Letter 中国 / 北京編
Asia・Oceania
北京
~最新オフィスマーケットと企業が取るべき選択肢~
目次
1.北京市 概要

中国の政治・経済・文化の中心地である北京市は、全国から多くの人材や企業が集まる巨大都市です。約2,000万人以上の人口を擁し、国の政策決定機関が集中する都市としての役割だけでなく、国内外の企業にとっても重要なビジネス拠点となっています。なかでもCBD(中央商務区)は、1990年代以降の都市計画により整備された国際的なビジネスエリアで、高層オフィスビルが立ち並び、多国籍企業や外資系金融機関、大使館関連機関などが集積しています。約4km²の区域には、東京都丸の内エリアの約3倍に相当するオフィス街が広がり、北京市の中でも特にグローバル性と象徴性の高いエリアといえます。 こうしたCBDを含め、北京市全体でもオフィス市場には大きな変化が見られます。供給過多や経済環境の影響により、オフィス賃料の下落や空室率の上昇が続いており、企業にとっては戦略的な拠点選定がますます重要になっています。次章では、CBDを起点としながら、北京市全体に広がるオフィスマーケットの動向を俯瞰し、企業が今後取りうる「選択肢」について考察していきます。
(写真)CCTVビル(中国中央電視台本部ビル):CBDに位置する、ユニークな外観を持つ超高層ビル。2008年竣工世界的に有名な建築家レム・コールハース率いるOMAが設計。
2.空室率と賃料単価の推移

上記グラフの通り、賃料単価(緑棒グラフ)はコロナパンデミックがあった2020年から比較して、35%ほど下落しています。また空室率の最新データ(2025,Q2)は20%を記録しています。東京都心5区のオフィス平均空室率2.12%と比較して相当高い水準であることがわかります。この高い空室率は、オーナー側の賃料引き下げやフリーレント(一定期間の賃料無料)といったテナント獲得施策を加速させ、市場全体の賃料水準を押し下げる一因となっています。加えて、企業の業務縮小やリモートワークの普及も空室率の改善を難しくしており、悪循環が続いているのが現状です。
(出典)・世達志不動産投資顧問(上海)有限公司 北京分公司による調査
・三幸エステート㈱"オフィスマーケット調査月報 都心5区" (https://www.sanko-e.co.jp/pdf/data/202506_tokyo5.pdf)
3.空室率上昇の理由

3-1.供給過多による需給バランスの崩壊
近年も大型のオフィスビルが次々と竣工しており、2023年Q4には約53.8万㎡の新規供給が発生しました。2025年も30万㎡超の供給が見込まれており、CBDをはじめとした主要エリアでは慢性的な供給過多の状態に陥っています。一方で、テナント側のニーズはコスト削減や面積縮小に向いており、新たな供給を十分に吸収できていない点が大きな課題です。このような需給バランスの崩れが、賃料の持続的な下落につながっています。
また、2026年には北京市全体で約58万㎡の新規オフィス供給が見込まれています。さらに2027年も同等のペースで供給が続く見通しが示されており、この状況はしばらく続くものと筆者は考えます。
(出典)・Savills"Asian Cities Report – Beijing Office 1H 2024"
(https://pdf.savills.asia/asia-pacific-research/asia-pacific-research/acr---bj-off-1h-2024.pdf)
・Savills"China Real Estate Market Outlook 2025"
(https://pdf.savills.asia/selected-international-research/2025-outlook-en.pdf)
・Knight Frank “Beijing Office Market Report Q1 2025”
(https://content.knightfrank.com/research/1528/documents/en/beijing-office-market-report-q1-2025-12107.pdf)
・Cushman & Wakefield “Asia Pacific Outlook 2024”
(https://cushwake.cld.bz/outlook-12-2024-apac-regional-en-content-realestate)
3-2.外資系企業の縮小・撤退と中国経済の減速
2020年以降のパンデミックを契機に、多くの外資系企業が北京市場からの撤退や拠点縮小を進めました。駐在員の帰任や現地法人の統廃合により、CBDのオフィス需要が減少し、賃料の下落圧力が強まっています。
加えて、中国国内では個人消費や不動産投資の伸び悩み、若年層の高失業率などを背景に経済成長が鈍化傾向にあり、企業の事業拡大や新規進出に対する慎重姿勢が見られます。こうしたマクロ経済の減速も、オフィス需要の低迷に拍車をかけている要因のひとつです。
とはいえ、首都・北京という立地の優位性から、一定数の外資系企業や中国国内の大手企業は引き続き拠点を構えており、全体としてのオフィス需要が消滅したわけではありません。
3-3.脱中心化の動き

CBDから郊外や新興オフィスエリアへ企業が移転する「脱中心化」も進んでいます。主要企業が高コストな中心部を離れ、賃料の安い郊外サブマーケット(例えば北京東部の平谷区)へ移転し、コスト削減を図る動きが顕著です。望京区域など、既に企業集積が進んでいる郊外エリアにも大手企業や外資の本社機能・開発機関が移る傾向があり、こちらでも高品質空間の供給が活発です。加えて、中国政府も都市集中による機能過剰を懸念し、CBDを分散する政策を推進しています。通州区の副都心や河北省の雄安新区、未来科学城・懐柔科学城などの「科学都市」に行政・開発機能を移す施策が進められています。The Business Times紙の報道によれば、2029年までに北京市内で予定されている新規オフィス供給のうち、CBDエリアに42%、郊外エリアに58%が配分される見通しとされています。
(出典)・The Business Times “Tight CBD supply, resilient rents could revive demand for decentralised offices”
https://www.businesstimes.com.sg/property/tight-cbd-supply-resilient-rents-could-revive-demand-decentralised-offices
(地図):Wikimedia Commons「Districts of Beijing」より加工(作成者:Dong Fang、ライセンス:CC BY-SA 3.0)
4.在北京企業の選択肢
現在ご入居中のオフィスの契約更新を検討される際には、まずは最新の市況を正確に把握し、適正な賃料水準での契約見直しを行うことが不可欠です。その上で、周辺オフィスビルの賃料相場との比較や、移転にかかる諸費用を含めた総コストを試算することで、
「更新か移転」という選択において、より多角的かつ柔軟な判断が可能となります。
スターツの現地法人では、こうした選択肢を整理し、企業様ごとに最適な意思決定をご支援するご提案が可能です。実際に、現入居ビルと移転候補ビルの双方に対してスターツが交渉を行った結果、移転することなく、契約更新時に賃料の減額を実現した事例もございます。
仲介という立場を活かし、お客様に代わってオーナー側との交渉を行える点も、当社の強みの一つです。

2025年7月9日(水)に開催された中国オフィス移転セミナーでは、契約更新時の注意点や今後のマーケット展望について、現地法人責任者が解説いたしました。実際に更新や移転を行い、コストダウンを実現した事例もご紹介しております。
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